ブランコ


「どうしよっか?」

学校帰り、立ち寄った公園。
外灯がスポットライトのように照らすふたつ並んだブランコ。
子供の頃によく遊んだそれに並んで座る。

「………」

返ってこない答え。
そんなに簡単に答えが出ないのは分かっている。
自分だってすぐに答えが出せない。
わかってるけど、聞いてみた。
わかってるけど、気付いたらちょっと意地悪してた。

ブランコの上、立ち上がって足で漕ぐと、ぎぃと軋むような音が鳴った。
前後に揺れるブランコ。視界もそれに合せて揺れる。

ゆうらりゆらり。

「香穂、危ないぞ」

聞いた答えと違う言葉。
ありがとう。心配されるのは嬉しい。けど、それは答えじゃないよ。
私が聞きたいのは二人のこと。これからどうするか。
そう言おうかと思った。けど零れたのは素直じゃない、違う言葉だった。

「平気。だって子供の頃よりもっと高く飛べるよ」

ぎぃこぎこ。

子供の頃よりできることは多くなったのに。
子供の頃よりなんだか切羽詰ってる。
選択を突きつけられて、どちらか答えを出さなきゃいけないなんて。

--- なんでだろ?このままじゃだめなのかな。このままじゃ。

ぎぃこぎこ。

軋むブランコの音が不快になってきた。
視界がぶれる。

「香穂」

ぎぃ、と小さく音を立ててそれは止まった。
すとんとブランコに座る。

「梁」

彼が止めたブランコ。その指は鎖をぎゅっとつかんだまま。

「…そんなに、握ったら、指、痛めるよ」

そっとその指に触れる。
綺麗な音楽を紡ぐ、大好きな指。大きくてあったかくて。
それは、少し震えてた。

なんでうまく言えないんだろ。
なんでこんなに声が震えるんだろ。

「留学、行って、おいでよ。…待ってるから」

--- なんで、笑って言えないの ---。

「香穂」

その腕にぎゅっと抱きしめられて、その時はじめて声を上げて泣いた。
あたたかくて優しくてだいすきなひと。


--- 行ってらっしゃい。ちゃんと君の事、待ってるから。


>Back