麗らかな午後
麗らかな午後の日差し。
昼休憩になんとなく上がった屋上で、順平はベンチに一人ぽつんと座った彼の姿を見つけた。
そういえばいつも彼は昼休憩になるといつの間にか教室から姿を消していた。
一体何処に行っているのだろうとは思っていたが、こんなところにいたのか。
「なあ、何してんだ?」
見ればいつものヘッドフォンは肩にかけられていて、特に何をしている風でもない。
その視線はどこか虚ろで空を見つめている。心ここにあらず、といった方がいいかもしれない。
近付いてついついそう彼に声を掛けてしまった。
「…ひなたぼっこ」
「ひなたぼっこって…」
一言ぽつりと呟くように返ってきたそれに、順平は呆れたように小さく肩をすくめた。
ひなたぼっこって、健全な男子高校生が言うセリフか?年寄りでもあるまいに。
返す言葉を見つけられなくてつい、そのまま固まってしまった。
この転校生はどうもよくわからない。
無口で無愛想で、周りのことなど我関せずとばかりに、人とは違った行動をする。
人がどう思おうとこいつは全然構わないのだろうか?
「天気、いいから。順平もする?」
いつも無口な彼が、それだけ言って順平を見上げる。
確かに見上げれば雲ひとつない青空。やわらかな春の日差しは優しくぽかぽかと心地よい。
現実の世界から切り離されたような穏やかな時間。
あまりにも普通すぎて、毎夜来る影時間やタルタロスのことなど、何もかも忘れてしまいそうだ。
何が現実で何が現実でないか、そんなことがわからなくなってしまいそうな、穏やか過ぎる午後。
--- ひなたぼっこ、確かにそれも悪くないかもしれない。今は普通の高校生としての昼間の時間なのだから。
「そうだな。それも案外いいかもな」
笑ってそう告げると、彼が横にずれてスペースを作ってくれる。そこに順平は遠慮なく腰掛けた。
会話もなく、ただ時間だけが静かに流れていく。
そんな中、彼が先に口を開いた。
「…もう、いい?」
「え?」
短く尋ねられた言葉が何の話かわからなくて、順平は聞き返す。
「順平、何も話しかけてこないし。用がないなら俺、音楽聴きたいんだけど」
そんな言葉を告げながら、これ以上我慢してられないとばかりに、手の中のリモコンがピッと小さく音を立てる。
「仕方ねーな」
耳元にあてられたヘッドホン。これ以上、彼に何を言っても無駄だろう。
その耳元から少し漏れ落ちる音をバックに順平はゆっくりと目を閉じた。
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