マイペースな君
「なんじょーっ!!」
視界の奥で左右に大きく両手を振る人物。
そんなに手を振らなくてもその大きな声だけで、ちゃんと気付いている。
周りの注目を集めていることなど、気にする様子は全くなさそうだ。
『それ』 は駆けてきて自分の目の前でぴたりと止まった。
ああ、まただ。
きっとこの表情は何かを企んでいる。
企んでいるというのは少し言葉が悪いかもしれない。
自分にとって。そう見えるだけなのかもしれない。
ある時は猫のようで、ある時は犬のようで、その言動は全くもってつかめない。
分析できないものだから、対処のしようがない。振り回されてばかりいる。
--- いつもいつも。
「南条、あのねー」
整った貌に満面の笑みを浮かべて、無邪気に口を開くこの男。
こっちの気持ちも何も知らないで。
マイペースにもほどがある。
降参だ。
まったくもって、こんなに自分のペースを乱されるなど。
--- 山岡が見たら嘆くのだろうか?…それとも、喜ぶのだろうか?
あの日、山岡は嬉しそうな顔をした。
友人と一緒に帰るのかと。そう言って嬉しそうに笑った。
親が勧める学校に行かなかったのは、些細な抵抗。
この先、敷かれたレールの上を進まねばならないことは分かりきっていた。
ほんの少しの時間でも、自分の思うとおり生きてみたかった。
特に友人など必要ないと思っていた。
『山岡』 さえいれば、他には何も入らないと ---。
そう、思っていたのに。
伏せた視線に訝しげな声がかかる。
「どうかした、南条?」
「いや、なんでもない。気にするな」
知らず口元に浮かぶ笑み。
目の前の友人に視線を戻して聞き返した。
「それで、今日は何の用事だ?」
今日は一体何を言い出すことやら。
謹んで聞かせていただくことにするか。
今日もまた、マイペースな君に振り回されてばかりいる。
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