空が青いから。


空が青いから、あの人を思い出した。
空が青いから、あの人に会いたくなった。


「…みさん。各務さん!」
「え?」
「まったく、『え?』じゃありません。今は授業中ですよ。
よそ見ばっかりしてないで、さっさと問12を前に出て解きなさい」
呆れたような先生の声に、ふと我に返る。
何度か瞬きの後、周りに視線を巡らす。
いつもの教室。
ああ、そうだった。今は授業中だった。
「…はい、すみません」
席を立って黒板に向かう途中、ちらりとまた外を見た。


--- 青い青い、綺麗な空。


昼休憩。
「流依ッチ、よそ見して当てられてもちゃんと答えられるのはさすがだなあ」
カツサンドを頬張りながら、順平が感心したように言う。
「あはは〜」
誤魔化すように笑って、紙パックのジュースを一口。
「珍しいじゃん、流依がよそ見してるなんて。順平じゃあるまいし」
「なんだとー!!」
ゆかりの言葉に勢いよく順平が椅子から立ち上がる。
「ホントのことでしょ。それでいつも流依に聞いてるくせに」
「ぐぅ、言い返せねェ」
順平とゆかり、いつもの言い合い。とても微笑ましいと思う。
和やかな時間。でも何か足りない。

「なんかー、空が青かったから」

「「は?」」
不思議顔の二人。綺麗に声がはもった。
「空が青かったから見てたの」
「えと、天気いいから、どっか行きたいとか?」
順平が助け船のように、そんなことを言う。
「そうね、それに近いかな」
またちらりと外を見た。


『青』は あの人を 思い出すから。


「じゃ、どっか行っちゃう?さすがにサボリは無理だから放課後になるけど」
「ううん、いいの」
「流依、どっか行きたいんじゃないの?」
「いいの、ありがと」
二人の申し出に首を振ると、にこりと笑いかけた。

行きたいところは決まってる。
みんなとは、一緒に行けないところ。
指先に当たる冷たい感触。
ポケットからそっと取り出した、手の中の鍵を握りしめる。


「私、先に帰るね」
終業のチャイムが鳴る。
それだけ告げると鞄をつかんで教室を駈け出した。
「ちょっ、流依!」
追いかけようとしたゆかりは、その素早さに肩をすくめて席へと戻ってきた。
「もういないし」
「あんなに急いでどうしたんだ?」
「…ねえ流依、行きたいところあったんじゃない?…一人で」
「だな」
ゆかりのその言葉に順平は大きく頷いた。


ポロニアンモール。

「ようこそ、ベルベッドルームへ。どのようなご用件でしょう?」
いつもの常套句が迎えてくれる。

「…流依さま、息を切らせてどうされたのですか?そんなに急ぐご用事ですか?」
「ううん、今日はっ、テオに…会いに、来たの」
「私に?」
そう言って彼は小首を傾げる。


『空が青かったから、あなたに会いたくなった』


そう告げたら、テオドアは一体どんな反応をするだろう?


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