シュガー。
「子供扱いしないで下さい」
そうやって君はことあるごとに言うけれど、やっぱりまだ子供なんだよ。
だから、甘えてもいいんだよ。
「天田君って大人びてるよね」
「そうだね、年の割りに大人びてる気がする」
「順平なんてさー、高校生の癖に子供っぽいのに。天田君、小学生なのに大人っていうかー、ホント見習えって感じだよね
「ゆかりちゃん、さすがにそれはちょっと言い過ぎじゃない?順平君に悪いです」
「えー、そうかなあ?」
ゆかりと風花の言葉に、適当な相槌を打ちながら、小さな彼の姿をこっそり目で追った。
たまに見かける。
彼の年齢には似合わない、ブラックコーヒー。
甘さなんて全然ないそれを、一体どんな気持ちで飲んでるんだろう?
「天田君」
「なんですか?流依さん」
「あのね、ココアいれたんだけど、ちょっと多めに作りすぎちゃって。…よかったら飲んでくれないかな?」
1Fのラウンジ。
他の皆から少し離れてカウンタ席にぽつんと座る彼に、にこりと微笑んでそんな言葉を掛けた。
「…ココア、ですか?」
私の手の内のカップに注がれる、怪訝そうな視線。
「うん。甘いのダメなんだっけ?私が甘いのが好きだから、ちょっと甘めになっちゃってるんだけど。ごめんね?」
そう断りながら、塞がった両手の片方のカップを控えめに差し出す。
彼は躊躇しながらも、断るのが悪いと思ったのかそれを受け取った。
彼の小さな手におさまった少し大きめなカップ。
ほわりと甘い湯気を上げるそれを、どうしていいのかわからないような表情で見つめている。
隣の席にすとんと腰を下ろすと、私はかまわずそれに口をつけた。
口いっぱいに広がる甘さ。
「うーん、さすがにちょっと、甘かったかな」
ひとりごとめいてそう呟く。別に応えなど期待してはいない。
「…そんなこと、ないです」
「そうかな?」
「はい。甘くて、おいしいです」
小さく呟かれた言葉。
視線を向けると、彼は嬉しそうに笑っていた。
とても無邪気な笑顔だった。思わず自分の口元も綻ぶ。
いつも、いつもこんな風だったらいいのに。
無理して大人になんて、ならなくていい。
そのままでいいのに。
「ねえ、天田君」
「なんですか?」
「またココア作ったら、一緒に飲んでくれるかな?」
無意識に唇から滑り落ちたのはそんな言葉。
「はい、是非」
はにかんだ彼の笑顔がまぶしい。
もう一度口に含んだ少し甘めのココアは、なんだか優しい味がした。
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