たいせつなひと
こうして連れ立ってのテオとのお出かけは何度目になっただろう?
今日の依頼は「長鳴神社に出かけたい」というもの。
8月の終わり。澄み渡る青い空。
照りつける日差しは幾分やわらかくはなっているものの、いまだ夏を感じさせる。
天気もいいし、お出かけ日和。
他に予定もなかったので、ベルベッドルームに出かけてテオドアを誘ってみた。
隣を歩く涼しげな横顔をこそりと覗き見る。
白磁のような肌、端正な貌。均整のとれた長身。
長鳴神社に来るまでの道程、幾つもの視線を浴びた。
黙っていれば、きっとさぞや女の子にもてるのだろう。
黙っていれば。
「流依さま、どうかされました?」
視線に気づいたのか、テオドアがそう問いかけてきた。
「ううん、なんでもない」
不躾に見すぎたのかもしれない。ちょっと反省。
「あれはなんですか?」
子供のように目を輝かせて、境内を歩き回るテオドアに突っ込みを入れたり、笑ったりしながら楽しい時間を過ごした。
「あ、おねーちゃんだ!」
聞き覚えのある元気な声に振り向くと、舞子の姿を見つけた。
「こんにちは、舞ちゃん」
そういえば今日は土曜日。舞子がいつも神社にいる日だ。
ちょっと失敗したと心の内で思いつつ、にこりと微笑みかけた。
「おねーちゃん、その人だあれ?」
舞子の目線がテオドアの前で止まる。
「舞ちゃん。この人はテオドアさん。おねーちゃんの…えっと、そう知り合いだよ」
なんと紹介すればいいか、ちょっと悩んだ。
友達というのはなにか違う気がする。
依頼主といったところで舞子には多分意味がわからないだろう。
--- テオと自分の関係は一体何だろう?
一番無難な「知り合い」という言葉を選んだが、テオにはどう思われているのだろう?
「お初にお目にかかります。テオドアと申します」
丁寧に一礼してテオドアが自己紹介する。
「舞子です」
それに倣って舞子がぺこりと頭を下げた。
「おにーちゃん」
「私のことですか?」
「うん」
屈みこんでテオドアが舞子に視線を合わせる。
「おにーちゃんは、おねーちゃんのカレシなの?」
「えっ!舞ちゃん、ち、違うっ。誤解だよっ」
思ってもないその言葉に慌てて首を横に振る。
舞子はテオドアから視線を外さない。
彼の答えを待つように、じっとその顔を見つめている。
「…私は黄色くもないし、多分辛くはないと思いますが…」
困ったような表情で、テオドアがそう告げる。
「テオ、それはカラシだよ!」
相変わらずの天然ボケに思わず突っ込みを入れる。
「おにーちゃんは、おねーちゃんのカレシ?」
もう一度同じ質問を舞子がした。
「…私は魚ではありませんが…」
「それはカレイ!」
つい条件反射で突っ込んだ。
成立しない会話に頭が痛くなってきた。
早いとこ、この会話を終わらせてほしい。
「んー外人さんにはわからないのかなあ?でも舞子、英語わかんないし」
舞子がそう呟く。
英語は関係ないと思う、と心の中で密かに突っ込み。
なんだかとても脱力感。誰かこの状況をどうにかしてほしい。
「じゃあ、おにーちゃんにとって、おねーちゃんは大切な人?」
これならわかるかなーと舞子が可愛く小首を傾げた。
「はい、大切な方ですよ」
これまでと違ってテオドアが即答した。
「私にとって流依さまは一番大切な方です」
そう言ってテオドアが優しく微笑う。
その笑顔がとても綺麗で思わず見惚れてしまった。
「そっかあ。よかったー。おにいちゃん、おねーちゃんのことよろしくね」
「はい、舞子さま」
「おねえちゃんには幸せになってほしいの。舞子にとっても大切な人だから」
舞子がそう言ってこちらに視線を向ける。
なんていい子なんだろう。
「おねーちゃんも舞ちゃんのこと大切だよ」
ぎゅっと小さなその体を抱きしめる。
えへへーと嬉しそうに舞子が笑う。
「…あ、早く帰らないと暗くなっちゃうー。デートの邪魔してごめんね」
「いや、だから違っ」
「結婚式には舞子も呼んでね」
こそっと舞子から耳打ちされる。
「だから違うってー!舞ちゃんーっ!」
それは大きな誤解だって。
今度会うときには間違いを正さなきゃ。
「ばいばい、おねーちゃん、おにーちゃん」
振りかえって舞子がこちらに大きく手を振る。
それに二人で手を振り返した。
夕陽を背に並んで歩く。
「テオ」
「はい、なんでしょうか?流依さま」
立ち止って名を呼ぶと彼がこちらを向いた。
「さっき、言ったこと…」
--- 私にとって流依さまは一番大切な方です
「流依さま?」
「やっぱ、いいや」
訝しげな表情のテオドアに、そう言って笑った。
そしてまた歩き出す。
どういうつもりで言ったかなんて、まだ知らなくてもいい。
あの言葉を聞いた時、嬉しかったから。
>Back