追憶


今にもスキップでも踏みそうな軽やかな足取り。
明るい声とにこやかな笑顔。

「何やらとても嬉しそうですね」
「わかるー?今ね、とても嬉しいし、楽しいの」

テオドアとのお出かけデート。
こうやって連れ立って歩くのは、一体何回目になっただろう。
依頼がないと一緒に出かけられないのが、とてももどかしい。
本当はもっと話したいし、いろんなとこに行きたい。
だけど、きっと私から誘っても、彼は首を縦には振ってくれないのだろう。
だからこそ、この時間がとても楽しいし、嬉しいのだ。

ずっと続けばいいのに。
そんなことを私が考えてるなんてきっとテオドアは知らないのだろう。

知らない世界を回って、子供のようにはしゃいだり目を輝かせたりする人。
たまにおかしな行動もとるけれど、それすら愛しい。
好き、だなと思う。

「テオってなにかに似てるってずっと思ってたんだけど」
「流依さま?」
「昔飼ってたわんこにちょっと似てるんだー」
「…わんこ、ですか?」
不思議顔で首を傾げるその姿がまた可愛い。
ホントにわんこみたい。
くすりと笑うとテオドアが困ったような表情をした。

「まだね、両親が健在だった時に、おねだりして犬を買って貰ったの。私、その子のことが大好きだった」

10年前のあの日。
両親と一緒にあの子もいなくなってしまった。
わがままなんて言わなければよかった。
遊びに連れてってなんて。みんなで出掛けたいなんて、言わなければよかった。
二人とも忙しいのにお休みを無理して取ってくれて。
言わなければ、よかった。

そしたら私、きっと一人じゃなかったのに。
家族みんなで仲良く暮らせていたのに。

「嬉しいときも悲しいときも、いつも一緒だったの」

目を閉じれば今でも思い出せる。
あかい世界とくろい煙。なにかが焼けるひどいにおい。
悲しい鳴き声が。
助けて、あげられなかった。

「なんで私だけ、残っちゃったんだろ」

ぽつりと呟いた言葉。
「そんなことを仰らないで下さい。流依様には、たくさんのあなたを思う方々がいます。…私もそのうちの一人です」
「ありがと、テオ」
泣き笑いの顔で両手を伸ばして、ぎゅっとその体を抱きしめた。
「…流依、さま」
彼の少し動揺した声。
抱きつかれるなんて、思ってもみなかっただろう。

「ごめんね、テオ。あの子の代わりに抱きしめさせて。少しの時間でいいから」

全部、覚えておくから。
忘れたりしないから。


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