悪夢
手がべとつく。
それがなぜなのか、視線を両の手に落としてわかった。
朱に染まったそのてのひら。
--- 目の前に横たわるのは…。
「ガイ…ガイ!」
がくがくと大きく体を揺さ振られて意識を取り戻した。
ゆっくりと瞳を開く。目の前には心配そうな彼の表情。
「よかった」
そう呟いて、彼はほっと安堵の溜息を吐く。
「…ルーク?」
いつの間にか喉がからからだ。掠れた声で確かめるように彼の名を呼んだ。
「ガイがうなされてたから、起こしたんだ」
「うなされて…」
ベッドの上、半身起こしてぐるりと周りを見回すと、そこは今夜の宿の部屋。
そういえば今日はルークと相部屋だった。
窓に引かれたカーテンの隙間からは淡い月光がゆるやかに差し込む。
ああ、そうか。あれは夢か。
血に染まった自分のてのひら。夢だったのに鮮明に覚えている。
憎しみに駆られて、手を下した。
ずっとずっと憎かった。自分にはないものを全部持っているおまえが。
無垢できれいな魂。憎くて憎くて、けれど愛しくて。
どうすればいいのかわからなくて、一時の激情に身を任せて震える指先で剣を振り下ろした。
正気に還った後、物言わぬその冷たい躯を掻き抱いた。
どうしていいのかわからないまま。
「…ごめん」
ふと口をついて出た謝罪の言葉。
「なんでガイが謝るんだ?」
「ごめんな、ルーク」
手のひらで己の顔を覆う。今の自分は見られたくない。
こんな情けない自分の姿は、みっともなくて彼に見られたくはない。
「ガイ?どこか痛いのか?」
「…ごめん」
それ以外の言葉を知らないように、ただ謝ることしかしない俺の背に、ルークがぎこちなく両腕を回す。
「ガイは悪くない」
そんな言葉が彼の口から告げられる。
「大丈夫、ガイは悪くない、何も悪くなんてない。だから大丈夫」
繰り返される優しい言葉。
いつのまにこんなに人のことを思いやれるようになったのだろう。
ぎゅっとその腕に抱きしめられる。
夢とは違う、あたたかな彼の体温。聴こえてくる規則的な鼓動。
何も知らない目の前の彼が、夢の中の俺を赦してくれたような気がした。
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