ありがとう


それは5歳の誕生日。
綺麗に飾り付けられた広間。ご馳走にプレゼントの山が並ぶ。
家族や使用人達、お祝いを告げに来た沢山の人々に囲まれて、幸せな一日になるはずだった。


そう、いつもの、しあわせな、たんじょうび。


近付いてくる無数の足跡。金属の交じり合う音と怒声。
穏やかな時間は無常にも消え去った。
「よいですね、あなたはここに隠れているのです」
「姉上っ」
「大丈夫、あなたは必ず私が守ります。あなただけは」
大好きな姉マリィの告げるその言葉。安心させるように彼女はふわりと微笑んだ。

目の前で起こる惨劇に足が竦む。
「危ないっ!」
「ぼっちゃまをお守りして!」
「ぼっちゃまだけは」
自分を守ろうと姉もメイドも身を挺して自分を庇う。


どうして?


これは夢だと誰かに言って欲しかった。
これは悪い夢なのだと。
目が覚めたらいつもどおりの日常に出会えると、誰かにそう言ってほしかった。


あかい、あかい。


瞳を閉じてもあの赤が脳裏から離れない。
燃え上がるホドの街。綺麗だった街並みは無残にもその原型を留めてはいなかった。
炎は火の粉を撒き散らし辺りを朱に染めていた。地面は折り重なる人々の地で赤く染まっていた。


あかい、あかい。


「ぼっちゃま、逃げましょう。せめてあなただけは」
剣を片手に構えたまま、彼が空いた腕で自分を抱き上げる。
「…ペール。他のみんなは?」
「申し訳ありません。私の力が至らないばかりに」
「………っ」


どうして?
だって今日は僕の誕生日なのに。


あれから19年の月日が経った。
燃え上がるホドの街。助けられなかった人々。無力だった自分。
今もまだあの光景が焼きついて離れない。あの時のことを思うと胸がちりりと痛む。

ちらりと視線を彼へと向ける。
「なんだ?ガイ」
「いいや、なんでもないよ」
「変なの」
「ま、気にするな」
訝しげな彼の頭をぽんと叩く。
「…たく、子供扱いするなよなー!」
「あははっ、ルークはでもまだ7歳だろ?」
「うるさいっ!」

忘れられるわけがない。忘れてはいけないと思う。
けれど。…けれど、おまえが教えてくれた。
過去ばかりに捕らわれてはいけないと。未来に目を向けなくてはいけないと。
考えなくてはいけないのは過去じゃなく、未来。これから自分がどう生きるかということ。
それを教えてくれたのは、7歳のおまえだった。


「ルーク、ありがとう」


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