嘘吐きな舌


きっと、それを口にした方が負けなのだろう。
だから、ずっと欺き続けるのだ。
この関係を壊さないように。
言葉にすれば、きっと壊れてしまうから。


--- 愛してる、などとそんな馬鹿げた言葉は自分から口にはできない。


「陛下。あなたのせいで私の仕事が溜まってしまうじゃないですか」
小さく溜息。
机の上に積み上げられた書類にちらりと視線をやって、不平を漏らす。
彼が来ればこのまま仕事を続けることはできない。


--- そう、この後はいつも通り…。


予定外の彼の来訪。
いつもこうやって気紛れに彼は宮殿を抜け出して、ふらりとジェイドの執務室へとやって来る。
正式に部屋を訪れることの方が珍しい。

「仕事なんておまえが本気を出せばすぐ片付く癖に」
笑いながら見下ろす瞳。
机の上に腰掛けた彼と座ったままの自分。その位置関係は皇帝と軍人のそのままだ。
彼の指先がジェイドの貌へとそのまま伸ばされる。
静止の声を掛ける前に、フレームに手を掛けられ眼鏡を奪われた。

「…あなたに何を言っても仕方ありませんね」
人の眼鏡をくるくると手元で回して弄ぶ彼。
その姿を目にしてジェイドはもうひとつ、深い溜息を吐いた。

「それより、しようぜ?」

短く告げられた言葉。
主語などなくてもそれが何をあらわすのかわかってしまう。いつものことだから。
彼の口元には悪戯な笑みが刻まれている。
自信に溢れたその強い瞳。


--- いつからその瞳に囚われたのだろう?


ジェイドは答えの代わりに机に片膝付くと、彼の首に両腕を絡める。
ぐいとその腰を抱き寄せられた。密着する体。
机を乗り越えて間近で見詰め合う二人。
うっすらとその貌に微笑みを湛えると、ジェイドは噛み付くように自分から口付けた。

『好きだ』という言葉も『愛している』という言葉もお互い言ったことはない。
ただ体を繋げて、ひとときの快楽を貪る。
こんな関係は爛れているのかもしれない。間違っているのかもしれない。
『幼馴染』や『親友』という関係からは逸脱していると思う。
けれど、自分からはそんな甘ったるい言葉を口にする気はない。


これ以上、近付きすぎては火傷ではすまなくなると、頭のどこかで警鐘が鳴っていた。


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